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過秦樓
路地を行き交う馬の足音もようやく途絶える。
もの憂げに露わな井戸辺に寄り添い、飛び交う蛍を愛らしく叩いては、
あだに舞ううち絹の薄扇を引っかけ破る。
夜気は静まり返り、更けゆく中、彼女は手すりにもたれかかる。
眠りも忘れるほどの憂悶にさいなまれ、夜を告げる水時計の矢が尽きるまで佇む。
あぁ、青春は一瞬の間に過ぎ去り、いとしい人は今や千里の彼方、
夢は沈み、便りもはるか遠くに途絶えてしまった。
空しく噂される、もつれやすい鬢は玉の櫛を恐れ、
黄金の鏡に映る顔立ちはやつれ、時の化粧を整える気力すらないと。
梅雨は大地を湿らせ、湿った虹の雨は苔を潤し、
あんなにも見事だった紅の棚の花々は、すっかり変り果ててしまった。
誰がこれを信じようか、あなたのために江淹の才は衰え、
荀倩の情愛は身を焦がしたというその悲しみを。
ただ天の川の影の下に、なおも残るまばらな星の光が数点、見えているばかり。
閒依露井,笑撲流螢,惹破畫羅輕扇。
人靜夜久憑闌,愁不歸眠,立殘更箭。
嘆年華一瞬,人今千里,夢沈書遠。
空見說、鬢怯瓊梳,容銷金鏡,漸懶趁時勻染。
梅風地溽,虹雨苔滋,一架舞紅都變。
誰信無,爲伊才減江淹,情傷荀倩。
但明河影下,還看稀星數點。
閑に露井に依り、笑いつつ流螢を撲ち、画羅の軽扇を惹き破る。
人静かに夜久しく闌(た)け、愁いて眠りに帰らず、立ちて残る更箭を尽くす。
嘆ずらくは年華一瞬、人今千里にあり、夢は沈み書は遠しと。
空しく見ゆと説く、鬢は瓊梳に怯え、容は金鏡に銷け、漸く時に乗じて勻染することに懶しと。
梅風地は溽(じょく)し、虹雨苔は滋り、一架の舞紅都て変ず。
誰か信ぜんや無きを、為に伊がために江淹の才は減じ、荀倩の情は傷むと。
但だ明河の影の下、還だ看る稀星の数点を。